豊島区、千川駅近くのわかしま内科のブログです。

過日、腹痛疾患での膵炎という病名の不確かさ、を投稿しました。そのあとで、都内大学の消化器科教授の膵癌の講演を拝聴しましたので、膵癌の周辺の問題、慢性膵炎がいくぶんでも膵癌発生の高リスクなのだとすれば、慢性膵炎の過小診断、みおとしも困るだろうという感想をもちました。慢性膵炎臨床診断基準2009を参照しながら、投稿します。

早期慢性膵炎とはいかなるもの?

膵炎のうち、慢性膵炎という病名は、膵臓に慢性の(ある時間的な経過を越えた)病理組織変化を生じ、進行すると膵臓の内分泌(ホルモン)、外分泌(消化液)の機能の低下をきたす病態であると、定義されています。

 早期慢性膵炎の診断基準

1)      反復する上腹部痛発作

2)      血中または尿中膵酵素値の以上

3)      膵外分泌障害

4)      1日80g以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴

1から4のうちいずれか2項目以上と、以下の早期慢性膵炎の画像所見をみとめること

早期慢性膵炎の画像所見 a または  b

a)    超音波内視鏡の所見が以下7項目のうち1から4のうちいずれか1つを含む2項目以上あること(長くなるので省略、詳しくは慢性膵炎臨床診断基準2009に)

b)    内視鏡をもちいたERCPの所見で、3本以上の分枝膵管に不規則な拡張が認められること

早期慢性膵炎の診断、って結局はまだ研究レベル 一般診療でただしい運用で診断がされるには、充分な他の疾患の除外が必要

早期慢性膵炎という疾患概念を含めて検討しないと、急性膵炎(主にアルコール性)の反復とその結果の「成れの果て」のように診断していた慢性膵炎との時間的な橋渡しが出来ないし、また膵癌の高リスク群の設定など未解決な問題がたくさん残るからなのでしょう。膵炎、とくに慢性膵炎の診断には、残念ながら膵臓組織の臨床での評価、すなわち生検検査というのが存在しないのです。膵炎があって、慢性膵炎があれば、それはある日突然に完成した慢性膵炎になるわけではないのだから、どう定義し診断するかは別にして、「早期慢性膵炎」に相当するフェーズはあるのでしょうけど。

そうなると、いかに確実に膵炎を指摘するか、またその進行度を評価するか。それを、間違えようのない、できれば多くの医者や患者に導入できる方法で実現するか、まだまだ課題の多い分野であるという印象をもちます。

研究上の仕事してはともかく、臨床の医療、目の前の患者を診断し治療するにあたっては、膵炎の診断が、過小なのか、過剰診断なのか、さらに検討していきたいと思うのです。