豊島区、千川駅近くのわかしま内科のブログです。

今日は、ふとしたきっかけで少し深く勉強してみた「かゆみ」の話です。

じんましんのかゆみ

痒くて痒くてしょうがない!って、どういう病気の症状でしょうか?みなさんがすぐに思いうかべるのは、じんましん(蕁麻疹)の痒みですね。皮膚に不規則で鮮やかな島状の発赤が拡がり、赤い場所は台地のように少し盛り上がっている特徴があります。急に腫れてモーレツに痒い。出たり引っ込んだりすることもある。原因のハッキリした「食あたり」のじんましんもありますが原因不明かつ繰り返して慢性化するじんましんもあります。じんましんはヒスタミンという科学物質が強く関与していて、その痒みをおさえる抗ヒスタミン薬を中心とした治療方法が広く知られています。

末梢性のかゆみと中枢性のかゆみ

ところが、この抗ヒスタミン薬が治療の主役のかゆみ、「末梢性のかゆみ」とまとめられる一群の痒みのほかに、今日話題にする「中枢性のかゆみ」というのがあるのです。どういう病気で生じやすいか?慢性の腎臓病や肝臓病では、それぞれの機能低下によって体内にかゆみ刺激の引き金になる老廃物が蓄積すること、また水分量の調節を欠いて皮膚乾燥の原因になること、などから抗ヒスタミン薬が効かないかゆみの出現頻度が増えます。現在通院中の内科、皮膚科などの治療で改善しないかゆみのなかには「中枢性のかゆみ」もある、そういう話題です。眠れないほど、かゆい。日中いつもかゆみに悩まされている。抗ヒスタミン薬を処方してもらっても、かゆみが、なかなかおさまらないで悩んでいる。そういった患者さんを思い浮かべながら、この投稿を書いています。

かゆみの機序として、ヒスタミン以外のどういったものがあるか?

1)  まず最初にあげるのは、乾燥肌での皮膚障害。皮膚に存在するかゆみ刺激の受容体が皮膚表面に浅くむき出しになります。そこでは、かゆみを伝達するC線維末端が直接刺激され、かゆみに敏感になる。この点の対策は、適切なスキンケアが主体です。外用薬のなかには効果的なものもあります。

2)  ヒスタミン以外のケミカルメディエーター(サブスタンスPやTNFα)の関与したかゆみ。こういった体内物質に引き金されるかゆみは、抗ヒスタミン薬単独ではおさまりません。

3)  さて、今日のメインの話題。最近では、「内因性オピオイド」という体内物質と、オピオイド受容体(μ、κ)の関係の関与が発見されています。複数あるオピオイドのうち、βエンドルフィンがμ受容体と結合するとかゆみが誘発され、ダイノルフィンがκ受容体と結合するとかゆみが抑制されることがわかりました。ちなみに、オピオイドという聞き慣れない物質、終末期医療で頻用されるモルヒネが、脳内で作用して疼痛を除去してくれる作用が判りやすい例です。モルヒネは主にオピオイドμ受容体を刺激して、モルヒネ投与時の「中枢性のかゆみ」の副作用を起こすことが知られています。

オピオイドκ受容体の選択的作動薬ナルフラフィンの発売

このような基礎研究は、新しい薬剤の開発にむすびつき、「オピオイドκ受容体」だけを刺激し、「オピオイドμ受容体」を刺激しない選択的な受容体作動薬「ナルフラフィン」(商品名レミッチもしくはノピコール)が世界初の薬剤として日本で開発されたのです。2015年から血液透析患者、慢性肝疾患患者のかゆみ、特に抗ヒスタミン薬投与等で効果不十分の者に対する保険治療薬として承認されています。かゆみの治療に内科医の果たせる役割をふやせる、有用な治療手段となりうると期待しています。