豊島区、千川駅近くのわかしま内科のブログです。

わかしま内科・消化器科では、膵臓癌の早期発見が困難なことから、膵臓癌患者の血液にみられる特徴的な遺伝子変化をとらえる「マイクロアレイ血液検査」を2年前から行なってきました。

今回は、膵炎の診断と治療、また「膵炎もどき」の消化器症状について、ブログにアップしようと思います。少し長くなりますが、膵炎の病名になにがしかの疑念があって当院のブログにたどりついた患者さんのために書きました。ブログを書くにあたっては、自分の消化器科医としての臨床経験だけでなく、「急性膵炎診療ガイドライン2015」で客観化されている記載内容を参考にしています。

 膵炎の症状

膵炎の診断にふさわしい典型的な患者さんは、上腹部(へそから上)の腹痛(しばしば激しいもの)をみとめ、吐気、嘔吐を伴うことが多いです。膵臓の背中寄りの解剖学的な位置から、膵炎の腹痛では左の腰背部も痛い傾向があります。膵臓の炎症の病気ですから、発熱を伴うことも多い。そういった典型的な症状のある患者さん、またもっと重症の症状のある膵炎では、その診断のあやまりはあまりないだろうと思います。

 膵炎は増えている病気、でも。。。。。。

さて、表題のごとく日本で膵炎は増えているか?文献的な考察では、1980年代は10万人あたり12.1人 2003年で10万人あたり27.7人 2015年のガイドラインでは年に10万人あたり49人とされています。ですから、膵炎は増えている、それは確かなのかもしれません。

10万人あたり年間49人の急な腹痛の病気が「膵炎」だとするなら、豊島区の住民の数はおおよそ40万人ですから、豊島区で年間200人の膵炎が発症していることなります。ただし、です。この豊島区で年間200人という数字には、激しい症状で発症し昼夜病院に救急車で運ばれて入院するような患者さんがかなりの数含まれますから、腹痛の相談事で診療所の外来に相談しにくる患者の数はそう多いものではありません。消化器を専門としてキャリアを積んできた私としては、「膵炎は見落とせない重要疾患ではあるが、さりとてクリニックに毎月のように初診患者がある疾病ではない」というのが本音なのです。ブログを読まれて「私も膵炎じゃないだろうか?」と来院される腹痛患者さんをこれからも真摯に診察したいけど、半数以上、特に症状の軽い患者さんは、他の診断名になるのが普通だろうと思います。

 患者さんの年齢、性比

性別の特徴は、男女比2対1で男性に多い病気です。年齢の特徴は、男性では50歳代、女性では70歳代にピークがあります。比較的高齢者が多いということですね。若年者、特に20歳代、30歳代の女性では少ないのが、統計的な事実です。「私は膵炎でしょうか?」「そうですね、まあ、膵炎でしょう」とはいかない、その可能性を考えておいたほうがいい。

膵炎の原因

膵炎にはさまざまな原因があり、その原因ごとの対策と治療が必要ですが、アルコール、胆石に関連するのが2大成因です。大量飲酒者の比率の男女差からでしょうか、女性では圧倒的に胆石を原因とする膵炎の頻度が高い。非飲酒者ではなおさらのことです。

ガイドラインの記載によると、一日に60グラムのエタノール(アルコール)を摂取する者がアルコールが原因の急性膵炎を発症するリスクは、25年あたり2~3%であるとされています。また、同じくガイドラインによると、胆石、胆砂などをみとめる者では、飲酒、非飲酒にかかわらず急性膵炎発症の高リスクであるとされています。ガイドラインでは、タバコ、睡眠などは膵炎のリスクと相関しないとされています。飲酒歴の有無、胆石の存在がなによりも背景として重大、ほかの生活習慣や体質、体型もあまり関与がないけど、肥満や過食、高脂肪食などは膵炎発症を促進する因子です。

他の膵炎の原因もないわけではないのです。私の出身医局の後輩の奥様、今は都内の大学病院婦人科の女医さんをされていますが、膵胆管合流異常という先天的な疾患を基礎に、婦人科当直勤務前後の不規則な食生活で重症の膵炎を発症されています。でも、珍しい感じがします。

また先日、近隣の病院の症例検討会に参加してきました。不規則な食生活経口避妊薬(ピル)の内服を背景とした、若年女性の高中性脂肪血症が原因の重症膵炎でした。救命できずに亡くなられたそうです。これも珍しい。けど、そういうのもある。

 ふたたび、あなたは本当に膵炎??

冒頭に「でも、あなたは本当に膵炎??」と書きました。膵炎はたしかに近年増加傾向らしい。そして、私の回りでも、上記のように重症膵炎を発症した女医さんも居られるし、病院の勉強会でも重症膵炎の死亡例について勉強しました。でもでも、腹痛で外来受診する患者さんを膵炎と診断する機会がそれほど多いのかな?というのが今回の私のブログの趣旨です。

 膵炎の診断基準

以下に、診療ガイドラインにある「膵炎の診断基準」をあげますから、ご自身の腹痛が膵炎らしいか、読んでみてください。

急性膵炎の診断基準

1 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある

2 血中または尿中に膵酵素の上昇がある

ただし、これは膵アミラーゼや、リパーゼなど、膵特異性の高いものを用いる。(血中の全アミラーゼが高くても、他病での上昇も多くて証拠としては不充分)

3 超音波、CT、MRIなどでの急性膵炎に伴う異常所見がある

123のうち2項目以上を満たし、他の膵疾患および他の腹痛の原因疾患を除外したものを急性膵炎とする

 

 膵炎の診断には、他の腹痛疾患の除外がたいせつ

ここの、「他の膵疾患、腹痛疾患を除外する」というところがミソだと思います。膵炎を強く疑うほどでない軽度の異常値を血液検査でみとめて、あれ?これも膵炎?でも症状や経過が膵炎のようでもあるし違う感じもするし。。。ということはしばしばあります。診断基準の1、2の2項目をみたす、というのは、ドクターの見る目によっては、なんとなく成立してしまう。だから、膵炎の診断がつきました、ってなりますが、しかしそれでは正しい診断にはむすびつかない。

 膵炎の過剰診断の恐れ

私が心配するのは、膵炎の見落としもあるのだけど、過剰診断なのです。

膵炎を疑ったら、血液などの検査をする、それはよい。超音波や紹介先でのCT、MRIを行なって、見落としのない診断をするのも重要。ただし、「他の腹痛の原因疾患を除外する」のも、とても大切だと思います

膵炎と診断したときの(入院して絶食をさせて治療するほどの重症例ではない症例での)治療方針は、脂肪を中心とした食事内容の制限、禁酒のもと、膵酵素阻害薬、経口消化酵素剤、などを投与するのですが、それらの処方が効かない人をいつまでも「膵炎」「膵炎うたがい」として治療しつづけるのも、どうかなあ?って感じがします

膵炎を含めた腹痛疾患の診断に、採血や画像診断(わかしま内科ならエコー検査)、ときに紹介してのCT、MRI、必要なら内視鏡検査、そういった検査を必要に応じて行なう。でも、膵炎だけではない、いろいろな腹痛疾患がありますから、その病名は幅広いし、それを知っているドクター、思い込みでなく鑑別診断できるフェアーな目線をもったドクターであることが必要ですね。

症状を改善できる医者は良医ですが、いったいどこのクリニックがおススメできるのか?標榜科名や、病院の規模、繁盛しているかどうか、ネット上の口コミ、そういったことでは判らないのです。いつも思うことは、ここですね。病院選びは患者さんにとって、むずかしいのです。