豊島区、千川駅近くのわかしま内科のブログです。

先日、書いたようにC型肝炎の治療はこの20年間のインターフェロンの効果的な使用方法の発達、今年から始まったインターフェロンフリー治療、それらによって一通りの解決手段が揃いました。ウイルス学的な分析(薬剤耐性等)や使用する薬剤の特徴、慢性肝炎の病像、病期への理解などウイルス性肝炎を専門としてきた経験をもつ医師が対応したほうがよいのはもちろんですが、かなり問題解決への道は開けたように思います。

さて、今日は、B型肝炎について書きましょう。2000年より前のB型肝炎の患者さんたちの状況を今ふりかえると、それはときに厳しい経過であったと思います。B型肝炎の患者さんにもインターフェロン治療は行なわれてきましたが、当時はさまざまな投与スケジュールが試されていた時期であり患者が負担する身体的、時間的、経済的負担と、その治療の効果との間には少しギャップがあったように思います。諸々の治療を受けていてもなお、C型肝炎よりもはるかに急速に肝機能が悪化するケースがあり、通院を続けながらも病状は悪化し、黄疸、腹水、肝性脳症などに至った患者さんもいて、主治医として患者のちからになれなかった記憶が残っています。そのうえ一部の患者さんには肝臓癌が発生し、さらなる悪化の経過をあゆみました。

2001年でしたか、最初の抗ウイルス薬ラミブジン(ゼフィックス™)が発売になり、それは次世代の抗ウイルス薬エンテカビル(バラクルード™)に引き継がれて今日に至っています。数少ない薬剤耐性例を除けば、バラクルードの投与によってほぼ確実にB型肝炎ウイルスの量は抑えることができ、それまで肝炎の活動性が高かった(トランスアミナーゼが高かった)患者でも良好にコントロールできます。低下傾向であった肝機能も次第に改善し、以前なら肝不全になるのを待つだけの運命であった患者の肝臓を回復させることができるようになったのは、素晴らしい進歩です。バラクルードを使えば、とりあえずB型肝炎の沈静化は正直どの医者にもできるように思います。ただ、バラクルードの問題点としては、投薬の終了のめやすが難しい。使い続けるかぎりは順調だが、投薬を中止終了しようとしても、その明確な条件設定がまだありません。一生内服していただくので宜しいのか?そこの問題もあり、インターフェロン治療などの他の治療とバラクルード投与と結局どっちが患者にメリットがあるのだろうか。そういったことも検討が必要です。(基本的には、治療のガイドラインに沿った判断にはなります。)

長くなりましたが、B型肝炎の経過を主治医とともに患者さんがみていく、治療方針を選択するうえでは、

1)抗ウイルス療法は行なわず、経過観察
2)バラクルードなどの経口抗ウイルス薬の服用
3)インターフェロン治療

の選択肢があります。肝炎の鎮静化のためには、必要があればバラクルード等の投与をすればほぼ全例で目的を達成できます。

B型慢性肝炎では以前のように肝機能が悪化して倒れる患者はほとんどみなくなった。だから、あとは肝臓癌の発生をできるだけ防ぐ、万が一肝臓癌ができてもそれを乗り切るためのフォローアップ(早期に発見、治療する)を行なうことが勝負のわかれめです。

B型肝炎では肝炎が沈静化し、トランスアミナーゼ(GOT,GPT)が正常であっても、ときに肝臓癌ができてきます。予想不能といえば予想不能で、いつだれにできるかわからないような恐さがあります。しかしまた、「どういう背景をもったB型肝炎に肝臓癌ができやすいか」を予測する判定方法もあり、今からの5年、10年、その先、に癌ができる確率の低い患者、高い患者などを見極めることが主治医の仕事です。癌ができる確率が高いようであれば、その状況を改善する手だてとして、治療方針が選択されるべきでしょう。それが現在のバラクルード投与やインターフェロン治療の選択のポイントです。

基幹病院の専門外来、あるいは市中にも少数ですが肝炎治療を熟知した診療所はあります。そういった主治医といっしょに長期的な展望で治療をえらばれると良いと思います。あなたの一生を大切に考え、診てくださる先生を決められますように。