豊島区、千川駅近くのわかしま内科のブログです。

インフルエンザ予防接種の回数について。

13歳未満では2回が推奨されています。13歳以上〜成人〜高齢者では1回ないし2回の推奨となっていて、その判断は医師と接種者に一任されています。13歳以上についてどう説明するかは、それぞれの医療機関の院長先生の頭に何への想いがあるか、で変わってきます。で、結論はとても難しい。外来で接種時にチョロっと質問する接種者さんがおられますが、一言2、3分で結論づける問題ではない。私の記事を読んでから出直してください、って言うと機嫌悪くなられそうで怖いんです。でも接種する診察室に入ってから訊かないでください、が本音です。

まず、13歳未満での2回接種の推奨について。

6ヶ月から3歳未満では大人の半分の量しか1回に接種しません。だから2回?いえ、違います。3歳から13歳未満では、大人と同じ量で2回接種します。つまり、合計投与量にしても、3歳以上の子供には大人の2倍を接種するのですから。子供には、インフルエンザワクチンが効きにくい、1回の接種ではなかなか充分な効果が手に入らないのです。ワクチンの効果の考え方には「ブースター効果」という考え方があります。ブースト(押し上げる)という言葉が学者たちの使う言葉ですが、私は「2段ロケット」に例えます。1回目のワクチンで手に入れた病気への免疫、抵抗力、を2回目のワクチン(2段目のロケット)で、より高く打ち上げる。そうしてようやく、子供でも有効な免疫のレベルまで高く飛ぶことができる、そんな感じです。

13歳以上ではどうでしょうか?

大人の予防接種でも、当然、2回接種したときには、ブースター効果は得られます。1回よりも2回のほうが、免疫のレベルは高くなります。でも、大人、特に高齢者では、1段ロケットと、2段式ロケットとの性能の差、2段目を使って打ち上げたときにさらに上乗せされる免疫の高さは、子供のようには大きくありません。高齢者では私は1回で充分です、と返事をしています。毎年、2回をする必要は高齢者ではない、そう説明しています。心配性なかたや、自分の体力に不安を抱くかたが2回接種をしたいと言われるなら、拒みはしません。でも患者全体に2回が必要で好ましい、とは説明しません。免疫のちからを持続させるためには「毎年1回接種してください」とは言います。

13歳以上の若年者ではどうですか?

1回接種で充分な効果にならない子供、1回接種で比較的充分な効果になる高齢者、その中間です。不充分とも言えないし、充分とも言えない、中間です。あいまいです。だから、「1回ないし2回」です。インフルエンザに罹っては困る、その度合いにもよるでしょう。自身が高校受験をひかえていて今年だけはインフルエンザに罹ってはいられない。兄弟に受験生がいる。家族にインフルエンザをうつしてはいけない強い事情がある。それだったら、2回接種するのも選択であると思います。ただし、1回接種でのインフルエンザ予防効果を60%とか70%とか想定するなら、2回接種での上乗せは、せいぜい20%程度だと思ってください。1回で50%、2回で100%、とか言うふうに都合よく割切れる計算ではありません。

インフルエンザの予防接種は、たいてい1回あたり◯◯◯◯円、と医療機関ごとに設定されています。自費の医療行為については、それぞれの医療機関が価格を設定し、ある意味競争原理を働かせるルールになっています。1回目と2回目が同じ料金であるなら、1回目にくらべて2回目は「上乗せされる効果の程度からみれば割高」です。それでも、2回接種する必要がありそうだと判断されるなら、医療機関に2回接種の希望を伝えるとよいと思います。

WHOのインフルエンザワクチンの指針では、前年度に接種している子供について小学生だろうが中学生だろうが年に1回でよい、としています。理にかなった考え方だと思いますから、大いに尊重されるべきだと考えます。しかしまた、「WHOが言っていますからね」とも私は日本で振りかざさない方針でいます。WHOは世界を相手に発言していますから、それは世界レベルでの「費用対効果」の考え方に基づいているのだろうと思います。それぞれの国の置かれている経済的な状況にもよりますから、日本のワクチン接種回数のついての「強い科学的根拠」にはならないでしょう。ワクチンの添付文書にある中学生までは2回という回数もまた「強い科学的根拠」に基づかないのですけども。。

予防接種を提供する側からの説明が充分になされているのか、そんな思いで、今日は書きました。

なお、医療機関の収益ないしはワクチンメーカーの収益を優先するなら、それは2回接種のメリットを強調する方向になるのが当然です。フェアーな説明に基づいて、接種されるみなさんが判断されるべきことです。