豊島区、千川駅近くのわかしま内科のブログです。

昨年の秋以降、わかしま内科のブログの閲覧数のトップに常にあったテーマです。

7月上旬の製造販売承認というスケジュールは、以前からだいたい想定されていた日程通りです。多くの日本国内のGENOTYPE 1型のC型肝炎患者さんたちが待っていた経口剤による治療です。今後、薬価の決定というプロセスに時間が必要ですし、また、多くの患者さんにとっては、医療費助成の対象になってからの投与ですから、その決定にも多少の時間がかかります。それでも、今年の9月末までには、治療開始が可能な投薬になると予想します。

昨年9月からブリストルマイヤーズ社がジェノタイプ1型のC型慢性肝炎の経口剤の治療を日本で発売し、たくさんの患者がその恩恵を受けてきたのは、周知の事実です。そして、それらの治療の成果は肝臓診療の専門施設から既に学会発表などが成されています。しかし、わかしま内科では、極めて少数例のブリストルマイヤーズ社の処方しか行ないませんでした。それには大きな理由があります。ブリストルマイヤーズ社(以下B社と略します)の処方は、世界発の臨床使用が日本で行なわれました。おそらくは日本に多数の患者が居るジェノタイプ1bでは結構良い成績を示す事ができたものの、アメリカに多い他のジェノタイプでの成績がそこまで良くなかったのだろうと思います。「ちょうど日本のマーケットでは良い成績の薬」を持ったB社は、日本でのビジネスを最初に展開する道を選んだわけです。

そうなると、日本の肝炎研究者、とりわけトップレベルの臨床の研究者にとっては、飛びつかない訳にはいかない治療です。日本で世界初の治療が始まり、その成績を多数の患者でいち早く評価する。それは、先端の研究者が自らの存在を主張するための必ずやらないといけない仕事であり、ある意味「責務」であると思います。アメリカの肝臓病学会のような場所で日本の研究者が示したかった、その演題はB社の治療薬ならではの成果であっただろうと推測します。

わかしま内科でのB社の処方の使用が極めて限定的であった理由は、まさにこの「世界初」にあります。世界初であるが故に、日本での製造販売承認に至るまでのごく少数例での治療経験だけが先行して、有効である事、また少数例の治療経験だけからすれば「まずまず安全」という事、そういう手順で保険診療を認められて昨年の9月に登場したわけです。B社に私は何度か尋ねました。「腎機能が悪い患者ではどうなの?」B社は、そういうデータがないから答えは無い、不明、と答えました。何か、不都合な副作用や、慎重でないといけない副作用や他の合併症を併存する症例での注意点は?という質問に対して、「そういうデータはない」「そういうデータをお持ちの研究者が居たとしても、その研究者が個別にお持ちのデータをわたしたちB社が漏らす訳にはいかない」と言うばかりで、何の情報も追加しなかったのです。そうして、日本の多くの患者でこのB社の処方が使われました。

私、若島にとっては、あまりに情報の少ない治療であり、その情報を積極的に増やさない、開示しない姿勢のB社の処方は信頼をおける治療ではなかったわけです。トップレベルの研究者たちの仕事は「とにかく多数の患者に使ってみる」「いち早く他の医療施設よりも多くの投与例を体験して、どう良くて、どう悪いかを示す、見つける」ことが宿命的な仕事でしたが、私にはあまりにリスクの多い治療でした。それでも使わないといけない患者も居ました。目の前で肝臓の病変の悪化傾向が目立つ、病気の勢いをストップすることが待たれている患者、IFNの適応とはならなかったがウイルスの排除が急がれる患者、そういう人には、あと1年もすればギリアドの薬が出ると言っても待たせるのは酷に思われました。そうして最初に処方したのが、糖尿病性腎症を合併した患者です。透析にはまだまだ時間がある状況でしたが、B社の処方の開始から1ヶ月もしないうちに、腎機能の悪化が著明となり、救急入院をへて、腹膜透析の導入に至りました。B社の処方による腎機能の悪化とみられています。

私がギリアド社の処方に期待する理由の第一は、それらの処方が既に昨年来、アメリカで使用されていて、出現する可能性の高い副作用についての情報が蓄積されている点にあります。ソホスブビルには、どうもそれ単独で、あるいは抗不整脈薬との併用で、心停止を含めた心拍への悪影響が少数例ながらも報告されています。アメリカでの多数の投与経験に基づいた情報が既に手に入っているのです。だから、日本の臨床の医者はそういった情報を充分に加味して投与対象の選択をすればよい。日本の患者で未知の副作用についてのリスクを冒す必要がないのです。ギリアド社にはB社よりも積極的な情報提供、海外での情報を含めて、そういう副作用情報等の収集と開示をお願いしています。

また、ギリアド社のハーボニー™ の日本における臨床試験の投与成績も、B社の処方を上回っています。その成績の良さについては、昨年来耳にしてきたことです。新しい情報ではありません。ですから急ぐ必要の無い、ギリアド社のハーボニーを待てる患者ではB社の処方を開始しなかったのです。そういうスタンスで待っていた処方が今年の9月から使用可能になります。いよいよ本当の経口剤による治療。「インターフェロンフリー治療」の時代の幕開けです。