豊島区、千川駅近くのわかしま内科のブログです。

今日は、脂肪肝についてです。

検診や人間ドックの肝機能チェックでの異常値の指摘は、結構頻度の高い出来事です。GOT,GPT(AST,ALT)や γGTP の異常値の指摘があったときに、どう対応するか。数値の異常を指摘しているものの、検診や人間ドックの報告書に印字され指示されている方針は、経過観察とか、要精査とか、アルコールに注意しましょうとか、ばくぜんとしていて、実際どうしたらいいの?という印象を与えます。真剣に対応したほうがいいのか、軽く受けとめていたほうがいいのか、ハッキリしない。

さらに、もしもあなたが診療所や病院を受診したとしても、外来医の皆が肝臓病をよく知った医者とは限らないので、再びハッキリしない方針を指示されたり、申し訳ないのだが誤った方針を指示されてしまうことがあるのが困った状況と言えます。

1)検査の異常値の高い、低い、に惑わされないこと。

肝臓の病気が深刻なものかどうかは、検診でチェックされるGOT,GPT, ガンマGTPの高いか低いかで決めるものではありません。肝臓を専門に治療してきた医師にとっては、数値の異常の背景にあるもの、肝臓病の原因が何なのか、そのことを明確にして初めて、病名の判断に至ります。原因次第で将来どういう経過をたどるかの予測、治療の方針は変わってきますから、「数字が高いから、薬をのんでください」というような話ではないのです。

2)原則は、原因に応じた(病名ごとの)治療を受けることが大切。

B型、C型などのウイルス感染による肝臓障害、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性肝硬変などの免疫の異常に関連した肝臓障害、飲酒(肝臓にとってはエチルアルコールという化学物質です)や医薬、健康食品等の化学物質の摂取による肝臓障害、そういった原因を明確にしたうえで、それらは原因の除去を中心とした治療方針がたちます。

脂肪肝と脂肪肝炎の違い 「なんとなく脂肪肝」では間違いのもと

脂肪肝という言葉は一般の患者さんたちにも知られているし、肝臓病を余り診察し慣れていない医師もよく患者に話す病名です。「なんとなく脂肪肝」のように思っている、そういう使い方がよくされている病名です。

3)脂肪肝とは

現代社会では、過食や肥満が原因になって、からだのなかで行き場を失った過剰な栄養が脂肪に変換されて各臓器にしまい込まれてしまいます。一部はおなかの内臓脂肪や皮下脂肪に、一部はエネルギー貯蔵の臓器でもある肝臓に貯まります。肝臓に脂肪が貯まって生じる肝臓障害を脂肪肝と呼びます。過食や肥満以外にも、飲酒(エチルアルコールの摂取)なども脂肪肝の原因になりますが、飲酒の場合はその量が多いと同時に肝炎の病状もくわわり、つぎに説明する「脂肪肝炎」(脂肪肝プラス肝炎)になることが多いです。脂肪肝と脂肪肝炎は、その将来に控えている経過、悪化の方向性が異なりますので、しっかりと区別して考えないといけません。非飲酒者の脂肪肝の多くは肝炎を伴っていないので、その点は、飲酒者に比べると経過は良好なことが多いのです。しかし、例外があります。そのことはのちほど、述べます。非飲酒者の脂肪肝では、肝臓障害がどんどん悪化して、肝臓病で倒れるような経過はまず無いのです。でも、過食や肥満が原因であること、その比較的早い段階で脂肪肝が見られる傾向から、脂肪肝は糖尿病などの前段階であったり糖尿病の早期発見のきっかけであったりしますから、軽んじられる問題ではありません。あと、頻度は少ないのですが、タンパクなどの栄養の摂取が少ない過度のダイエットの状態にも脂肪肝は生じるとされています。ヤセに合併する脂肪肝もないわけではないことも付け加えておきます。

4)脂肪肝炎とは

脂肪肝の状態と肝炎の状態が同時にみられている病状です。飲酒(アルコール摂取)のもとでは、ごく普通に見られます。脂肪肝と区別されたいのは、肝炎の状態が重なることで、肝臓障害の進行、悪化が予想されることです。肝炎の状態が重なると肝臓は徐々に「線維化」という変化をきたします。固い筋(スジ)状のものが本来は柔らかかった肝臓のなかに出来はじめ、それは時間とともに増加して行きます。「線維化」が進んだ状態が「肝硬変」です。つまり脂肪肝炎は放置することで肝硬変まで進行する病気であることが、脂肪肝と異なるところです

5)注目されている非飲酒者の脂肪肝炎(非アルコール性脂肪肝炎 = NASH)

2000年過ぎから注目を集めるようになり、スポーツ新聞等が取上げている話題の病気です。飲酒者ではないのに、(ただの肥満、過栄養だけが原因なら脂肪肝にしかならないはずなのに)、脂肪肝に肝炎の病状が合併していて、飲酒もしていないのに肝硬変、肝硬変の手前などと診断されることがある病気です。非飲酒者では精密検査のうえでも脂肪肝と診断され、ひとまずは安心できることが多いのですが、頻度は高くないのですが、脂肪肝炎であると診断されることがあります。飲酒者の脂肪肝炎と同様に肝硬変の原因にもなるし、さらに進んで肝臓癌の原因になることも注目されています。糖尿病にむすびつくから注意しましょうという脂肪肝と、肝硬変、肝臓癌になるかもしれませんよという脂肪肝炎とでは将来予測としては全く別の話になります。諸説ありますが、誰が脂肪肝になり、誰が非アルコール性脂肪肝炎になるか、を区別する方法は現時点でありません。ですから、その区別を明確にするためには、肝臓病に詳しい医師のチェックを受けるしかありません。

わかしま内科の院長としては、その辺りを大切に患者を診察しています。