豊島区、千川駅近くのわかしま内科のブログです。
癌になりますよ、という話はタバコを吸う人はもうだいたい知っている。それでも、タバコを止められないのだから、癌予防を動機にした禁煙のススメは効果的ではないと思います。タバコを毎日の生活の習慣にしてきた人がたまたま癌を発病、癌の手術が予定されると、手術日までタバコを止めるように指示されます。実際にそうなるとほとんどの人は突然に止めることができます。手術前にニコチンパッチが必要な人はあまり居ないのではないでしょうか。(最初は癌になればタバコが止められますという趣旨の投稿のタイトルを付けてみたのですが、ブラックな発言に聞こえそうで止めました。)
先日の禁煙外来と禁煙補助薬、リセット禁煙の話のつづきです。タバコと癌との関係についてブログにアップしようと思ったのですが、その前に、もう少し禁煙外来について調べてみました。
禁煙継続率というキーワードで検索をしたところ、以下の二つが眼にとまりました。
一つ目は、ニコチン依存症の外来を健康保険で行なっている医療機関へのアンケートの集計。
平成19年度調査 ニコチン依存症管理料算定医療機関禁煙成功率の実態調査概要(速報)
少し古いですね。同様のより新しい資料はありますが、平成21年。概要ではないので全部で108ページと分厚い。それ以降が見つかりませんが公表されていない?
平成21年度調査 ニコチン依存症管理料算定医療機関禁煙成功率の実態調査報告書
これを見てみましょう。
禁煙外来でニコチン依存症と診断される者は男女でいうと、男性が多い。男性では60歳台に向って高齢になるほど禁煙外来受診者数が多い。男女とも、30歳未満の受診者が極めて少ない。
禁煙外来受診の時点で半数の患者は30年以上の喫煙期間がある。喫煙本数は約75%が1日10本から40本である。
ニコチン依存症管理料の算定回数、すなわち初回外来にエントリーしたものを100%としたときに1回だけで中止してしまう患者が18.0%、2回目まで来院して中止するものが16.4%、3回目まで来院して中止するものが18.9%(ここまでで半分以上)、4回目で終了するものが16.7%、5回すべての指導を受ける者はエントリーしたものの30.0%だけであった。
算定回数(受診して指導を受けた回数)が増えるほど、禁煙率があがり、5回算定されたものでの禁煙率は80%に達するとされているが、この禁煙率は、5回目に来院したときの直近1週もしくは4週に1本もタバコを吸っていない者の率であり、将来長期の禁煙の達成者の比率ではないことに注意が必要。5回の禁煙外来終了の時点で80%は禁煙をしていたという理解。5回まで順調に通院されなかった患者ではずっと成績は悪い。
5回まで順調に通院された患者が30%でそれらが指導終了時点での最も成績の良い群であり、ひとたび80%の禁煙率に達するわけだが、それらのその後はどうか。9ヶ月後に評価されていて、最良のそのグループについても9ヶ月になると禁煙継続率は49.1%と落ちてしまう。1本も吸っていないことを禁煙継続としていて少し厳しい感じもするが。禁煙(ニコチン依存症)外来にしっかり最後まで通っても結局過半数は1年以内にまたすってしまうという結論のようです。
禁煙の学者はしかし、こういう結果にもヘコタレないで行きましょう、って感じで、「禁煙治療の標準手順書」では、1年たったらまたもう一度、禁煙外来で禁煙補助薬をもらって治療を始めましょう、って書いてあるように記憶しています。(ニコチン依存症管理料という医療費も1年以上過ぎればまた1回目から再出発、算定可能なようです。)禁煙外来、禁煙補助薬は、そうして失敗を繰り返すほどビジネスになる、当然関係者の本意ではないでしょうけど。
なお、禁煙成功率などを毎年届出ることが制度になっていますが、成功率が低い(失敗が多い)場合でも、ペナルティがあるとか、禁煙外来を名乗る資格の取り消しとかは、ありません。まあ、禁煙失敗は医療機関のせいじゃない、本人の責任だとするのなら、それが妥当なのですが。。。。。
で、過半数を越えることができない禁煙継続率について、何か対策を考えなくていいのか、それは医療機関の工夫の問題ではないのか?ということで次の2つ目。
禁煙治療終了前4週間の禁煙継続に関連する要因ー国立病院機構名古屋医療センター禁煙外来 日本禁煙学会雑誌 2011年
禁煙継続率の定義を、初回来院した患者全員を分母とし、5回目の時点でその直近4週間以上について禁煙を継続している者としている、診察を途中中断した者をすべてドロップアウトとして全員禁煙継続を失敗したものとみなしている。そのために、禁煙継続率の数字は悪く表されている論文です。解析の結果、禁煙外来5回受診時の短期的な禁煙継続成功の要因としては、以下をあげています。
基礎疾患に癌があると禁煙継続しやすい。男性は女性に比べて禁煙継続しやすい。禁煙できると自信をもって臨んだ者は成功している。単独ならば、チャンピックスの内服のほうがニコチンパッチよりも成功しやすい。
考察では、ニコチン依存度の高い患者が失敗しやすく、動機(motivation)や 自信(self-efficacy)などのレベルが高い患者が成功しやすかったとしています。この論文の著者らは結語として、
喫煙は、ニコチンによる身体依存と習慣的な心理依存が絡み合っておこる依存である。そのため、禁煙治療では、薬剤を用いた治療に加えて、行動科学の理論に沿った動機や自信の強化が有効とされている。本研究から禁煙治療では、効果の高い薬剤を用いるとともに、患者の心理的サポートとして、行動科学的な視点を持ち、動機、自信などの強化をおこなっていくことの重要性が示唆された。
としています。病院の規模の大きい禁煙外来であれば、独自のプログラムを作成して、心理的サポートが行なわれる可能性があり、有効であろうと思います。小規模な診療所の禁煙外来の多くが「禁煙治療の標準手順書」では詳しく述べられていない心理的サポートのメソッド、プログラムを持っていない可能性があり、ときには、患者自身が事前に「リセット禁煙」などの心理的治療手段を準備してから、禁煙外来に向う必要があるのではないかと思います。