豊島区、千川駅近くのわかしま内科のブログです。

睡眠メカニズムの新しい理解にもとづく処方、ベルソムラ

1998年に私の母校でもある筑波大学卒業の柳沢正史博士がヒトの覚醒にかかわる神経ペプチド「オレキシン」を発見した。このオレキシンの受容体拮抗薬、すなわち、オレキシンの働きをブロックして過剰に働いている覚醒(めざめ)のシステムを抑えるのが、今年の11月頃に発売が予定されているベルソムラ(™)(一般名スボレキサント)です。日本の科学者の発見であり、世界初の薬剤です。

脳を覚醒した状態から睡眠の状態に移行させる、本来の眠りをもたらす、と販売元の製薬会社MSDは説明しています。

過去の不眠症治療薬の多くは、ベンゾジアゼピン系として纏められる一群になりますが、それらと異なり依存性への配慮をする必要がベルソムラには基本的には無いようです。ベンゾジアゼピン系の不眠症治療薬では長期に連用したのちに、内服を中止すると再度、強い不眠に悩まされる現象、反跳性(はんちょうせい)不眠がみられることがあります。ベルソムラでは、その現象をみとめない(プラセボと比較して変わらない)とされています。

また、翌朝の覚醒後の認知機能にも悪影響を与えていない、そういう実験データが示されているので、認知機能低下の副作用を注意しないといけない、高齢者の不眠症にも、好適なのかもしれません。

新しい薬剤なので、まだ臨床での使用経験を私は持っていませんが、魅力的な薬剤が現れたと思います

他の疾患を基礎とする「二次性不眠症」、これは睡眠時無呼吸症候群などの身体の疾患、鬱(うつ)、不安、躁(気分の障害)、などの精神の疾患、そういった原因があっての不眠症の場合は、もとの病気の解決も必要です。

多くのベンゾジアゼピン薬、その後に発売された非ベンゾジアゼピン薬(マイスリーやルネスタが代表)、2010年に発売されたメラトニン受容体作動薬(ロゼレム)、今回発売されたオレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ)など、時代とともに、特徴のある薬物療法が加わってきました。以前の薬剤から、より適正な薬剤に切り替えることも必要かもしれません。並行して、正しい睡眠への理解、生活リズムの回復をはかり、昼夜のメリハリのある生活習慣を身につけることも、基本になります。